パッシブデザイン
最小限の暖房エネルギーで
「冬暖かく」を実現する
冬のパッシブデザイン
断熱
断熱性能を高めることによって、建物内の熱(暖房の熱や取り入れた日射熱)が外に逃げにくくなり、建物全体の温度を高く保つことができるようになります、つまり、冬の間寒いと感じる時間や部屋が減っていき、高い快適性が実現することはもちろん、健康性の維持にも大きくつながります。
断熱性能を表す指標と目標
「どこまで断熱性能を高めるべきか?」を判断するとき、もっとも重要で参考にすべきなのが建物全体で逃げていく熱量を示したUA値やQ値です。
次の表は、住宅の省エネルギー基準において定められた数値ですが、これは“最低限の数値”なので、この数値を1.5で割り算した数値以下にすることをお勧めします。
日射熱利用暖房
冬の南面に届く太陽エネルギーはとても大きく、これをうまく断熱性能を高めた建物に取り入れることによって、夜の暖房に使えるほどになります。
このエネルギーを取り込む基本的な場所は「窓」です。断熱性能と日射取得性能のバランスが取れた窓を選び、そうした窓を南面に大きく設けることが重要です。
たとえば東京で南面の窓(3㎡)に当たる日射熱は、冬の平均で「電気ストーブ1台分の発熱量(約1000W)」にもなります。CO2も出さず、0円であるこの日射熱を取り込まない手はありません。
窓を利用した日射熱利用暖房のしくみ
南面の3㎡に当たる1日分の日射量を、電気ストーブをつけたおよその時間数で換算すると、地域差はありますが、少ない地域でも相当な日射量が南面に届いていることがわかります。
都市 | 札幌市 | 仙台市 | 新潟市 | 長野市 | 東京都区 | 大阪市 | 福岡市 |
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一日分の日射量を 電気ストーブの 運転時間に換算 |
9時間 | 10.5時間 | 6時間 | 9時間 | 10.5時間 | 9時間 | 7.5時間 |
最小限の冷房エネルギーで
「夏涼しく」を実現する
夏のパッシブデザイン
日射遮へい
「冬暖かく」の基本が断熱とすれば、「夏涼しく」の基本になるのが日射遮へいです。日射遮へいの工夫のひとつに断熱もありますが、それだけで十分と考えるべきではありません。
そこで何よりしっかりと考えるべきは「窓の日除け」です。これが不十分であれば、夏に入ってくる熱の約70%が「窓から」となり、これを少なくしないと夏の満足度を上げることはできないのです。
窓の日除け装置は外につけるのが基本
内側につける日除け(ブラインド、レースカーテンなど)よりも、外側につける日除け(すだれ、シェード、ブラインドなど)のほうが圧倒的な効果があります。このことが十分に知られておらず、不十分な日除けになっている家が多いのが残念です。
軒や庇の考え方
軒や庇も日除けには有効です。しかし、次のような点に注意が必要です。
とくに東西の庇は、幅が不十分だと斜めからの日差しが入ってくる
ただし、南面の軒や庇を出しすぎると冬場に窓からの日射取得が不利になる
ルーバー雨戸や外付けブラインドの例
日射遮へいしながら風を通すことができ外からの視線も遮ることができます。
軒や庇も日除けには有効です。
自然風利用
夏に家の中よりも外のほうが涼しいとき、その冷風を取り込むと、涼感が得られ、建物内の熱気を排出させる効果も期待できます。ここでまず考えたいのは「全方位通風」の実現です。風は気まぐれなので、風向きによらず風が通るようにしておくわけです。
また、夕方以降になると建物の上部に熱気が溜まるので、それを排出させるために「高窓」をつけることも有効です。
窓を使ったウインドキャッチャー。
最上階の上部に設ける「高窓」。
建物に溜まった熱を排出させる効果は劇的です。
左のプランは「東西南北」いずれの方向からの風も通る「全方位通風」になっています。窓に平行に吹いてくる風を取り込む工夫(ウィンドキャッチャー)を考えると、窓がない方向からの風を取り込むことができ、全方位通風が実現しやすくなります。
最小限の照明エネルギーで
「明るく」を実現する
通年のパッシブデザイン
昼光利用
昼間でも「住まいの全体やどこかの部屋が暗い」という不満を持つ人は多く、それを解消して快適な明るさの環境をつくり出す工夫が昼光利用です。
ここでは、「バランスよく窓を設けること(採光)」と「取り入れた光を奥まで届けること(導光)」に考慮することがポイントです。
室内ドアを透明や半透明にして、光を共有する技。
高窓から光を落とす技。
光を通す欄間にして、隣の部屋に光を届ける技。(撮影:上田明)
吹き抜けで上から下に光を落とす技。
パッシブデザインの
主役は太陽!
日照シミュレーション 日射熱利用暖房、日射遮へい、昼光利用。これらのパッシブデザインは「いかにうまく太陽と付き合える建物にするか?」を検討する内容です。こうしたことがうまく考えられた住まいと、そうでない住まい(たとえば断熱性能だけ高い住まい)との違いは本当にとても大きくなります。そういう意味で、1年を通して太陽の動きを把握するための日照シミュレーションは必須です。
屋根にはほとんどの家で日射が当たる
南面に届く太陽エネルギーがとても大きいと述べましたが、屋根に届く日射熱もそれと遜色はありません。隣家などの状況によって南面に日射が当たらない敷地の場合、屋根でその熱をうまく取り込む工夫(天窓や集熱装置の設置)が有効になります。
もちろん、窓と屋根の両方で日射熱を取り込むことができれば、さらに日射熱による暖房効果は大きくなります。